
緑豊かな山懐に延びる一本の道
道路脇にはレトロな木製の電柱、そして奥には何やら宇宙船のような小屋が垣間見えます。
秋野不矩美術館は、浜松市の郊外、仁保川近くの丘の上に位置します。丘の下にある駐車場からは美術館が全く見えませんが、ここでは、建築家が仕掛けたと思われるアプローチの妙を味わうことができるのです。

グーグルマップで見ると、中央の丘の上に位置する美術館へは、左脇にある駐車場から曲がりくねる坂道を上り、さらに道をUターンしてようやくたどり着くようになっています。
自然の地形を巧みに生かし、わざわざ長い坂道を歩かせて、道を折り返した先に美術館が現れるという仕掛けは、アートに触れる非日常の時空間へいざなうアプローチとして、実に見事な演出です。

坂を上った折り返し地点
ここまでは美術館に背を向けるように歩いてきましたが、ここで振り返ると、ようやく美術館が目に入ります。しかし、ここでも来館者をじらすように、手前に樹木を置いて、美術館の全容はまだ見せてくれません。
ちなみに、右脇に見える宇宙船のような小屋は、離れの茶室です。

坂道を折り返すとようやく美術館正面の大きな壁が見えてきました。
ここからは一直線、坂を登るとともに視界が開け、少しずつ美術館の全容がわかり、来館者の期待感を高めていきます。

坂道を歩くこと約5分、ようやくたどり着いた美術館とご対面。
距離と時間を使い、場面転換を行いながら人を奥へ奥へと誘い込み、最後の最後で全容を展開する。そこには、伊勢神宮などの神社にも通ずるアプローチの巧みさを感じます。
この美術館では、見たこともないような不思議な造形ながら、その堂々とした姿で来館者を迎えてくれるのです。